そしてこのアスワンのさらに南、スーダンとの国境を成す巨大な人造湖がレイクナサー。ナイルを堰きとめて作られたこの湖の底深くには古のファラオたちの神殿が物言わず沈み、海かと見まがう茫漠たる水塊の中には太古より神の魚と崇められてきた巨大淡水魚、ナイルパーチが泳ぎます。

そんなわけで今回は探検気分。この広大な湖に舟を浮かべ、神の魚を追ってみることにしました。
アジア、ヨーロッパそしてアフリカを結ぶ陸の掛け橋エジプト。文明発祥の太古の時よりこの要衝の地は、人類史を彩る多くの出来事の舞台となってきました。

エジプトに人類が定住したのは紀元前五千年ごろ。灌漑農業を行う必要から次第に定住社会が形成され、やがてそれは今日のスーダンから地中海までを統べる巨大国家へと発展します。

紀元前30年、女王クレオパトラ7世の自殺で事実上の独立支配が終焉を迎えるに至るまで、エジプトは黎明期にあった人類文明の文化、政治、宗教、建築など、多岐にわたる領域での先駆的役割を果たしました。
一年を通して青空の広がるエジプト。そしてオアシスを彩るのは色鮮やかな熱帯の花々と小鳥たち。暗く長い欧州の冬を抜け出して、太陽降りそそぐこの楽園を訪ねると、何とも言い難い幸福感に包まれます。

なかでも僕らのお気に入りはエジプト最南の街、アスワン。’95年に初めて立ち寄って以来、ここを訪ずれるのも今度で三回目となりましたが、人なつっこいヌビアの人々、おいしい料理と青い空に魅せられ、何度でも再訪したくなる街です。
面積では日本の2.6倍というその国土、しかしその9割以上は灼熱の砂漠です。その乾きを潤し、人間の生活を可能としたのが、赤道アフリカに発し、スーダンを北上、エジプトを地中海に向けて貫流する世界有数の大河、ナイル。

ギリシャの史家ヘロドトスが‘エジプトはナイルの賜物’と評した通り、この川は文明の象徴にして、エジプトそのもの。
治水が進み、他の交通機関が発達した現代でも、人々の暮らしとこの川との結びつきが薄れることはありません。