そのためにはロッドティップをラインの方向、水面ギリギリまで下げ、手元からフライまで緩みのない一直線を成すよう調整することが重要。これによりフライの浮き上がりを抑えつつ、リトリ−ブによってフライに意図する動きを与えることができます。フライを見せる軌道も重要です。チヌの捕食視野、特に図1で示したように底に張り付いた、やる気のある魚の視野は狭く、その外にあるエサには気づかない、或いは関心を示そうとしません。条件にも左右されますが、魚の前方およそ1m四方にひろがるそのエリアへフライを導きいれるべく、キャスト位地とリトリ−ブを調整することが必要です。
チヌは一旦キャッチされると潔く抵抗をやめます。憮然とした顔でヒレを立てる姿は堂々としたものです。非常に強い魚で少々空気を吸わせたくらいで衰弱することはありませんが、撮影はなるべく早く行い、そっとリリ−スしてやってください。チヌは成長すると雄から雌へ性転換する魚で、40cmの個体は少なくとも6、7年を生きた成熟した雌。次世代へ命をつなぐうえでその一匹の価値は貴重です。

賢く、気まぐれで、神経質なこの魚。白昼堂々彼らと対峙し、人の気配、ロッドの影、ラインのドラッグといった
不自然な要素をひとつひとつ排除してゆくこと。そして緻密に巻いたフライを正確にキャストし、操作し、チヌの捕食行動を促してやること、これらを全てやりきった結果、ラインハンドにズシリと伝わるその重みは実に甘美なものです。この身近で新しいタ−ゲットに是非チャレンジしてみてください。



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応用編







ファイトとリリ−ス

次の瞬間リ−ルは猛烈に逆転を始め、バッキングラインは水平線の彼方へ、と言いたいところですが、チヌのファイトは基本的に鈍重で、ボ−ンフィッシュのような疾走も、シ−バスのようなエラ洗いも期待できません。筋肉質な体は強いトルクを発生しますが、一度に走る距離はせいぜい2〜3m、ロッドのタメとフットワ−クでいなすことができ、この点やや物足りない部分もあります。

ティペットとする7lbのフロロはチヌの力をコントロ−ルするには十分、切られることは稀。わざわざリ−ルに乗せようとせず、強引に手繰りこむくらいで丁度良いでしょう。
狙うチヌの頭上にフライを直撃することはタブ−です。チヌの捕食視野の隅、通常は2-3m潮上にフライをそっと置くようなキャストが理想です。技術が高い人ほど視点に対して正確なキャストができるものですが、しばしばこれが仇となり、狙う魚を直撃してしまいます。意識すべきはフォルスキャストを終えてシュ−トに移る瞬間、狙う魚から一旦目を離し、フライを置きにいくべきその一点に視点を移してからキャストすることです。
一方、好天、順光に恵まれると次に陥り易い失敗は、見える物に意識が集中してしまうこと。岩、海草、沈んだ空き缶、それらは参考情報ではありますが、そこに注意を奪われていると狙うべき魚は見えてきません。ふと気づけば足元でこちらを見上げている魚。それは既に警戒している釣れない魚です。

必要なのは魚に見つけられる前に、より早く、より遠くから魚を見つけること。そのためには一点を凝視せず、ぼんやり全体を見ること。感覚としては、見える範囲の3m外側を見る意識を持つことだと思います。15m先の岩が見えたなら、無理にでも視線を引きはがし、18m先の深みを疑うように努めます。こうして見える範囲を徐々に広げ25m先まで視界を拡大できたなら、人間の目は不思議なもので、もし20mの距離に横から魚が泳ぎ入ってきてもそれを捉えることができます。サイティングにおいて、遠くは近くを兼ねるのです。

自分にあった偏光グラスをかけ、これらを意識して鍛錬を積めば、誰にでも必ず見えるようになります。最後に、上達を加速させる秘訣は、見えるまでは投げないことの徹底です。
風で波立った状況では風を背中から受けるポジショニングが有効であることも知っておくべきです。風に押しつけられた水の曲面はレンズの役目を果たし、水中視界をむしろ改善してくれます。対して風を受ける側に立つと砕ける波が水面を乱し、視界は格段に悪化します。風速が5m/sを超えるとこの状況に悩まされる傾向が強まります。

勿論サイティングの最大の助けは光であり、少々の風に主導権を譲るわけにはいきません。が、強い風によって逆光でのサイティングを強いられる場合、また雲が多く、その水面への映りこみが視覚を攪乱する状況も現実には発生するもの。その場合、もし周囲に高い護岸や建造物、山などがあるならば、それら遮光物を視界奥の背景にするよう立ち位地を調整することで改善が果たせます。
キャスティング

タ−ゲット特定、さあキャストという時、今一度周囲を観察して下さい。狙う魚より手前に別の魚がいた場合、不用意なキャストは群れ全体をスプ−クさせます。狙う魚、それ以外の魚、視界中の全ての魚の位地を把握するまでキャストしない慎重さが重要です。

サイトチヌは至近距離ゲ−ム。フルラインを投げきることはありません。15mのラインとリ−ダ−ティペット、合計20mを正確に投げる技術が全てです。ロッドは9ft7番、またはトルクのある6番で十分でしょう。
−ゲット選定

サイティングに習熟すると沢山の魚が見えてくるはず。そして彼らの水中でのポジションや姿勢、動作まで見極められるようになります。ここで慌てて投げてはいけません。狙うべき魚を選定するのが次のステップです。

ことチヌに関する限り、表層を泳いでいる魚は無視するが吉です。喰い気のない魚にキャストしても周囲一帯をスプ−クさせてしまうだけ。狙うべき魚は浅場の底をジグザグに泳いでいる個体。または頭を下に向けて底をついばんでいる個体です。
快晴が最適なのは勿論ですが、悪条件への対応策を引き出しに準備しておくことも重要。

まずは淡い色をした、均質な砂底の位置を把握しておくことです。光量の乏しい状況でも、白い砂の上にのったチヌは比較的視認しやすいもの。また、曇天のときほど浅場に意識を集中すべきです。魚影そのものは見えなくとも、曳き波やモジリといったヒントを得ることは水深が浅くなるほど容易になります。活性の高い魚ほど浅瀬に乗り込んでくる傾向は強く、深場を捨て、浅場に絞り込んだサイティングは結果的に報われること多いのです。
サイティング

魚を視認する能力はサイトフィッシングの出発点であり他の全てを超える最重要技能です。その力が釣果を分けることは当然ですし、『釣れた』と『釣った』に一線を引く、極めて重要な要件を成します。

あるレベルまでのサイティングは特殊技能ではありません。裸眼視力良し悪しともさほど関係ありません。必要なのは好天と、その場所にあった偏向グラス(砂礫質の日本の多くの浜にはイエロ−かアンバ−のグラスが好適)。そのうえでの鍛錬に尽きます。

フィ−ルドに立ち、可能な限り太陽を背にすることは誰にでもできる第一ヶ条です。また、晴れた日でも一日を通じ太陽の位置は刻々と変化します。その動きを考慮し背後からの順光を味方につける立ち位置調整はゲ−ムを有利に進めるうえでの基本になります。
これら課題を克服すべく、Intermediateのクリアラインを試してみました。しかしそれではラインが先端からじわじわ沈みこみ、打ち返しに軽快感が失われます。またライン先端が目視できないため、メンディングが難しくなるのを感じました。潮の流れが強いフィ−ルドでは、正確なメンディングは極めて重要です。

試行錯誤の結果、僕にとってのベストは色付きフライラインの先端に8ftのクリアインタミチップに落ち着きました。この先にフロロの28、15、7lbを結節し竿一本分のリ−ダ−ティペットとします。フォルスキャストを最小回数に抑えてシュ−トし、長さ竿二本分の透明な先端部だけを魚の視野に展開することが僕流の作法です。
チヌに限らず、全ての魚は自分へ向って接近する物体、特に後方から近寄ってくる物体には恐れを抱き、スプ−クするものです。図3に赤色で示すような動きは避けねばなりません。

好ましい喰わせのプレゼンテ−ションは図4で緑色に記すように、魚の視界から遠ざかる、または魚の視界をかすめて横切ってゆく軌道です。まずはチヌに視界の中の異物に気づく時間を与えてやること。そして興味をもったチヌが10cm程まで接近してきたとき、一呼吸を置いて、小さく、鋭く、3cm刻みのリトリ−ブを開始。チヌが体を翻しフライを追跡しはじめたなら、いよいよゲ−ムは最高の見せ場を迎えます。
フックアップ

ロックオンしたチヌは執拗にフライを追い始めます。フライが3cm逃げれば3cmを詰め、5cm逃げれば5cmを詰め、フライの逃げる軌道上、右に左に身をよじりながら、つつき、かじりながら追ってきます。ラインには何度もかすかな衝撃が伝わりますが、ここでロッドをあおってはいけません。十中八九、フライは空をかすめて後方へ飛んでいくだけです。チヌが興奮して追いを速めるほどリトリ−ブを速め、もし途中でチヌがフライを見失ったり、距離を取ればリトリ−ブを緩め、彼らが再度フライを発見するまで一瞬のゆとりを織り込んでやる冷静さも必要です。

やる気のあるチヌを巧く誘えたならば、彼らは3cm、5cm、10cm刻みのリトリ−ブを3〜5m追跡するなかで興奮を高め、捕食本能に我を忘れます。そこでリトリ−ブを20cm、30cm!と加速させたあと一瞬の停止 . . . !その次のリトリ−ブは心して、体の後方まで引き絞ってやります。左手にしっかりとした重みが乗ったなら、フックアップは成功です。




喰わせの技法

完璧にキャスト、プレゼンテ−ションできたとしても、それだけで彼らの捕食スイッチを入れてやることは困難です。沈むフライに興味を持って近寄ってきたとしても、ボ−ンフィッシュのように素直に捕食することはまずありません。チヌは本物のエビやカニですらよく観察し、つつき、かじり、安全を確信してから口にする魚。やる気のある個体でもフライの10cm前で一旦停止、観察に移るものです。どんなに精巧に作ったフライでも所詮は偽物、彼らに3秒の観察時間を与えれば、違和感は不信感に変わり、大袈裟なほどの驚きを表現し逃げてゆきます。心がけるべきは、フライを見せる、しかし見せすぎず、小刻みなリトリ−ブで逃げるエビやカニを演出することです。
ライン選択

アプロ−チ、サイティング、そして慎重なキャスティング。おそらくそのラインが着水するよりも早く、チヌはスプ−クして疾走を始めているのではないでしょうか。フォルスキャストの一振りで数十匹のチヌがパニックに陥る光景には落胆させられるものです。

この釣りの先駆者の方々が書かれた記事を拝見し、米Monic社のクリアラインを試してみると、確かにフォルスキャストでのスプ−クは激減しました。潮の流れの弱い干潟や海岸線での釣りに関しては、この透明なラインが有効に働く局面は多いと思います。一方、このラインには幾つかの弱点があることも見えてきました。一つ目は、Floatingであるためにリトリ−ブの際に水面を乱し、乱反射で魚を警戒させてしまうこと。次に、Floatingであるためリ−ダ−との間に角度ができてしまい、テンションのかかるドリフトやリトリ−ブ時にリ−ダ−を持ち上げてしまうこと。(下図、黄色のライン) フライが水底から浮き上がるとチヌは興味を失ってしまいます。
フライ選定

いよいよ魚との接点、フライについてですが、これはフィ−ルド毎、季節毎、さまざまなバリエ−ションがあって当然と思います。僕が通いこむ瀬戸内に関しては水底の貝や甲殻類を捕食している傾向が強いようです。

僕自身は、ここでも試行錯誤の末、甲殻類、特にカニフライに最も信頼を置くに至りました。タイイングについては後述しますが、リトリ−ブ時に底を切らず自然なエビやカニを演出できるよう極力比重を重くするのがまず一点。しかしキャスト時の空気抵抗と、着水音を抑えるために極力シルエットを小さくすることが重要。フェルト素材のカニフライはどうしてもエビフライに比べ重く、大きくなってしまいますが、それを視界に捉えたときの執着心はエビより強く思われ、僕の#1チョイスになっています。
アプロ−チ

ここぞというポイントを見つけたら、晴れた日の真昼にフィ−ルドに出向き、偏向グラスをかけて観察してみてましょう。安心しいるときのチヌ達は大胆で、まさかと思うような浅瀬にまで乗り入れ捕食を行います。水深が体高未満の場所で一心不乱にお食事中のこともしばしば、息をのむ光景です。

勿論、食事の間も彼らは空や陸からの危険に対し神経を尖らせています。彼らを驚かせないようゆっくりと、足音を抑えて接近することはFF紳氏淑女、当然のエチケットです。
フィ−ルド選択

まず最初に、チヌは簡単な魚ではありません。100匹の魚と対峙して、手にできる魚は一匹と考えて下さい。従いゲ−ムを成立させるまず第一の条件は、魚影が濃いポイントを探すこと。これに尽きます。晴れた夏の日、偏向グラスをかけて海岸、特に河口部の干潟を観察してまわれば、日本全国、特に南日本ではチヌが群れる姿を見つけることは難しくないはずです。

有望スポットを見つけたら、底質を確かめます。泥底の干潟は冠水すると軟化して足を取られ、巻き上がる濁りが魚をスプ−クさせるので向いていません。また急深な地形はサイトフィッシングの自由度を制限します。固い砂利質の平坦な干潟が重要な要素。納得いくフィ−ルドを見つけるまでは、気晴らしに竿を出したりせず、GoogleEarthの衛星写真を片手に観察に徹するべきです。
チヌ、標準和名でクロダイと呼ばれるこの魚、そのいぶし銀の体、野武士のような顔つきは淡水魚にはない男性的な魅力に満ちています。悪食で知られ都市河川でも逞しく生き抜く魚である一方、非常に賢く神経質であり、良型を狙って釣るのは難しいとされてきました。10年程前ルア−での釣果が聞かれ始めた時には驚いた記憶があります。

この古くて新しいタ−ゲットをフライで、白昼堂々狙って釣る、スリルに満ちたゲ−ムをご紹介させて下さい。みなさんのSWFFチャレンジのヒントとなれば幸いです。
Sightfishing for Chinu
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