ドラドの産卵は初夏、10〜12月。幼少期は銀色で他の多くの魚に似た外見をしていますが、成長するにつれ名前の由来となった黄金色を帯びます。パラナやコリエンテス下流など、濁りの強い場所の魚は輝きが薄く、黄土色の体色をしている一方(最上段写真)、イベラ−湿原など澄んだ水に泳ぐものは、背は暗い緑色、側面の金色の輝きも深く、一層野趣に満ちて映ります。

オスの個体は20ポンド程度までしか成長せず、それ以上大型は全てメス。大型個体こそC&Rが徹底される必要があります。
幸いドラドの保護活動は成功を収めている模様。2005年には、1984年に記録された51lbを21年ぶりに更新する、53lbの大物が捕獲されたとのこと。またフライでも50lb(22.9kg)のトロフィ−が、8番ロッド、20lbラインでC&Rされたそうです。

マナ−を守った釣りは田舎に現金収入をもたらし、資源保護を促す前向きな行為、とまで言うのは都合良すぎる解釈でしょうかね。



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今回僕らが出かけたのは、パラナ川の支流。ゴリエンテス川の水源地域。春の雨で水位があがり、湿原に小魚が集まり始めると、これらを追ってドラド達も川を遡ってきます。川幅が狭く、キャスティングの釣りが成立しやすくなる反面、プレッシャ−を受けやすく、テクニカルな釣りが求められます。

ロッジの広告では『10ポンドはアタリマエ、20ポンドも夢じゃない!』等と景気の良い宣伝も見受けられますが、僕らの体験では、ドラドのヒットはせいぜい一時間に一度。うち半数がバレるとするとキャッチに成功するのは日に2.、3匹。ボウズという日も有り得ます。サイズに関しても50cm弱、3〜4ポンドが平均で、60cm、7ポンドを釣ればガイドと固く握手が交わされます。幼少よりこの川辺に育ち、『数え切れないほど』ドラドを釣ってきたガイドのPetoですら『10ポンド超は年に数匹』と言いますから、現実は厳しいものです。一方別の若いガイドは、『フライの練習二日目に21ポンドを釣った』と話していましたから、宝くじと同じく、どこかで誰かに幸運は巡ってくるのでしょうけども。
パラナ川は下流部では海と見まがう大河。大場所には大物が多いのも事実で、40ポンドを超える大型は主に下流部で多く釣られています。ただ、大場所での釣りはトロ−リングに頼る傾向があり、釣りての面白みは失われてしまいます。

下流部をキャスティングで狙うには水量下がる冬場がベスト。右は友人がキャッチした18ポンドの大物ですが、この一匹を捕るために一週間を費したと聞けば、そう楽な釣りではなさそうです。
多くの生物の生存が脅かされてきた中で、この魚、ドラドの生息地の多くが比較的資源に乏しく、人の手の入りにくい湿地帯であったことは幸いでした。ブラジル、ボリビア国境にまたがるパンタナル。そしてここ、アルゼンチン北部のパラナ・デルタ。どちらも商業価値に乏しい地域であったが故に開発を見ず、結果的に今、その自然美が、観光資源として認知されるに至ったのですから。現在では漁業規則も整備され、C&Rが励行される等、自然との共生が取り組まれています。

学術的には、カラシン科サルミヌス属に分類されるこの魚。同じカラシン科の近似種としては、南米に遍在するピラニアやアフリカのタイガ−フィッシュ等があるそうです。容姿を見るぶんには同じくアブラビレを持つ鮭鱒に似て見えますが、彼らはサケ目という別グル−プに属す魚群とのこと。進化の過程でどのようないきさつがあったのか、興味深いところです。

分布域はブラジル、ボリビア、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイ。ただし、一般にイメ−ジされる熱帯アマゾンには生息せず、ブラジルではマットグロッソ州以南、亜熱帯域にのみ生息します。世界遺産としても脚光をあびるパンタナルがそこにあたり、釣りには乾季後半、8〜9月がベストとされているようです(11月以降禁漁)。一方この魚のホ−ムグラウンドはなんといってもラプラタ水系。なかでもその支流のパラナ流域は、生息数、フィ−ルド規模、双方の意味で最も魅力的な地域と思われます。
Tigre de rio、川の虎と称されるこの魚、その黄金の体に秘める闘志と華麗な跳躍は、世界中の釣り師の憧れの的。僕自身幼少の頃、この魚のことを開高腱の釣行記『オ−パ』で読み『僕もいつかは!』 と憧れたことを思い出します。

それから20年近く。自然は、先進国の資源需要に呑み込まれ、破壊されてゆきました。今日でも、世界では一秒間に100平方メ−トルの森林が消滅しているとのこと。木材輸入大国日本に暮らす者として、反省することしきりです。
Dorado