モグラ叩きのようにピンポイントで打ち返す下流域の釣りはリズミカルな動の釣り。打って3秒以内に結果は出ます。こちらは一転して静の釣り。川の流れを計算し、水中の世界を想像し、フライをうまく泳がせることが重要です。

舟を浮島の脇にもやい、流芯にむかってフライを投げ入れます。まずは10mライン、そして13m、15m、徐々にスイングの半径を広げ、フルラインを使いきるまで探り終えれば舟を下流に移動し同じことを繰り返します。ネクラな想像にフライを泳がせていると、ドスン!!
Upper Corrientes
フックは魚の口の左端にガッチリとかかっていました。右岸から流芯をクロスして流した時、うまくすれば掛かるのがこの場所。まさにサケ釣りと酷似した釣りです。透明度が高く視界の利くこのフィ−ルドでは、濁った下流域の釣りのようにリアクションでヒットさせることは難しそう。一方、フライの流し方、誘い方次第では魚に狙いどおりにフライをくわせることで、フックアップの成功率を高めることもできそうです。面白くなってきました!
夕方、太陽が西の地平に沈む頃、ライズが始まりました。羽化する蚊を狙って集まる小魚、そしてそれを狙う肉食魚。いたるところで激しいライズが繰り返されます。

この状況ではフロ−ティングラインでの小型フライの表層引きがベストマッチ。引き波の後ろに背びれを立てて、次々にバイトしてきます。日没後の一時間、たくさんのドラディ−ダ(小型ドラ-ド)やパロメタと遊ぶことができました。第一日目、首尾は上々です。




Upper Corrientes 2




深く重い流れの底で何かが僕のフライをひったくりました。水面に音をたててラインが走った次の瞬間、あさっての方角で跳ね上がった金色の魚体。『きたっ、ドラ−ド!!』

二度三度と跳躍を繰りかえす魚を尻目に可能な限り速くラインを巻きとります。そして竿を下ろし、左手渾身の力でアワセを入れます。二度、三度、、よし、(多分)乗った!ボ−トの下に潜りこもうとする魚をタメ、強引に浮かせます。飴色に揺れる水底から、怒りに筋肉震わせる闘神の姿が、ゆっくりと浮かびあがってきます。なんという輝き、まさに黄金!

一見して、昨日までを過ごしたEsquina近郊の下流域とは異なる雰囲気に気づかされます。川幅は50m前後と格段に狭く、激しく蛇行するその岸には岩や倒木は見当たりません。それもそのはず、あたりは一面、葦と浮き草が織り成す緑の絨毯。この一帯では陸地というもの自体、ほとんど目にする、或いは踏みしめることができないのです。そして冒頭でも触れた、ウイスキ−色に輝く水。濁りが強く視界が30cmほどしかなかった下流域の水とは異なり、ここの水は素晴らしく澄みきっています。流れは思いのほか深く、流芯では平均して3〜5mもあるようでしたが、川底に揺れる水草にまでも太陽は琥珀色の光を投げかけていました。

ここでは岸際や倒木ギリギリを打っていく釣りが成立しません。岸というものが存在せず、ドラ−ドが身を潜める適したカバ−が少ないからです。また視界の利く透明な水中では魚は水底深くに潜る傾向。流芯の底に定位し頭上にベイトが通りかかれば一気に襲うという寸法です。ここではシンキングラインをカウントダウンし、流れにスイングさせて誘いをかける、サケ釣り的な技術が求められます。
空の果てまで広がる、イベラ−湿原。なみなみと注がれたウィスキ−色の水は、湿原南端で一筋の流れとなって歩み始めます。それがコリエンテス川の誕生。

釣り宿、El Doradoはそこから僅かに南、即ちコリエンテス川最上流部に位置します。無数の水路が網の目のように走る広大な湿原部分、地形が安定し魚の付き場が特定し易い川の部分、その双方を状況次第で釣りわけられる点でこの宿は恵まれた立地にあります。ウイスキ−の底に眠る金塊を目当てに、四日間、竿を振ることになりました。