僕らがシ−トに座ると同時に始まったエンジン全開での逃避行!激しく蛇行する流れのインコ−ナ−を、岸草を薙ぎ倒すほどきわどく抜けていきます。視界はさながらF1中継のOnBoardCamera映像、ぐんぐん距離を縮め迫る黒雲と閃光を振り返れば、右に左にバンクする舟にしがみついて祈るしかありません。僕らがギリギリ宿に逃げ帰った直後、あたりを襲った嵐の凄さはこの世の終わりかと思うほどでした。

シャワ−を浴び、ゆったりと夕食を終え、二杯目のワイングラスが空になるころには窓の外に虫の音が響き始めました。即席の湖に浸った芝生に出てみると、頭上には満天の星。Buenas Noches Argentina。


Upper Corrientes 3






『これは凄いことになってきたぞ!』 僕らがノッてきたその時、 『よし、終了!引き上げ!嵐がくるぞ!』とPetoの声。

『ええっ、もう!?』振り返った南の空にはただならぬ暗雲が、ラインをリ−ルに回収する間にも目に見えて近づいてきます!
『嵐の前は魚の喰いが立つことが多い。ギリギリまで釣ってはどうか?』とPetoの提案。この時点で彼の言う『嵐』が如何ほどのものか知らなかった僕ら、異存のあろうはずありません。

すると確かに活性は朝にも増して高く、入れ喰いとまではいかないものの、5キャストに一度程度の頻度で衝撃が走ります。ドラ−ドのみならずパロメタまでもが浅瀬でベイトを追いまわし、ボイルしはじめました。
昼食、恒例のお昼寝を楽しんだ後、夕方の部。4時過ぎに川辺へ出て行くと、お昼まであんなに青く澄んでいた空は、雲ですっかり埋め尽くされています。

『南風・・これは嵐になるで・・。』とPeto。暖かい北風吹く好天の続いた後、冷たい南風の押し戻しと共に激しい雨が降ることが初夏にはよく見られるとのこと。心なしか鳥達もそわそわした様子。
一見清々しい水辺に見えますが、そこは湿原というだけあって大変な湿度。太陽が天頂に達すると、その強烈な熱線から身を隠す場所は地平線まで一切ありません。

そこでさすがに閃光とまではいきませんが、僕も水中を駆け巡ってみました。

湧水に恵まれたこの川、水温は終日27度で安定。温泉気分で疲労も回復!
45cm、3lb程度の平均サイズ。

この程度までの若魚は集団行動を好む様子。浮島の間の水路に舟を進めると幾つもの魚影が、黄金の閃光を散らして水中を駆け巡ります。
この日は朝からいつになく快調。30〜40cmの小型ドラ−ドが竿を引き絞ってくれます。

おまけといっては何ですが、通常フライには興味を示さない草食魚、サバロともご対面することができました。生息数が多く群で泳いでいるため何度かスレガカリは経験していたのですが、今回は反射か偶然か(?)、口にうまくフックアップできていました。
Upper Corrientes

こちらのユ−モラスな魚はサン・アントニオ。水草の脇に隠れて小魚を待ち伏せします。黒のゾンカ−によく反応し、意外に良い引きで楽しませてくれます。

霊験あらたかな御名前の由来をPetoに尋ねると、『ふむむ、・・・そこまで考えたことなかった。』
ほとんど固い足場のない湿原の中にあって、この朝出掛けた流域では比較的しっかりした岸が多く見られました。ただし岸とは言ってもそれはせいぜい幅数m程度の帯状の足場。川が運んできた砂や草が体積してできた細い堤に過ぎないのですが。

岸の上から流れに向かって振り込み、足下のエグレにフライをスイングさせて誘う釣り方がここでは奏功しました。
この朝から3日間、僕らを担当してくれたガイドのPeto。豊富な知識経験に加え、問題のない英語力。それまでカタコトスペイン語のやりとりでためこんでいた疑問の数々を一刀両断にして頂きました。

2017年追記) その後PetoはCorrientes北東部、Itatiに移り、自分のガイドサービスを立ち上げました.。

客である僕らの希望やペ−スに合わせながら案内してくれるPetoとの釣りは快適。そのせいか、ついつい雑魚釣りに盛り上がる僕ら・・・。
二日目の朝は雲ひとつない快晴。今日はどんなドラマが待っているのか?

この牧場には900頭の牛が放牧されているとのこと。そしてやはり彼らも水遊びが好きなのでしょう。或いは川辺や湿原に生える瑞々しい草が目当てなのかもしれません。水辺はいつでも賑やかです。