この日は金曜。週末にかけ周辺に点在するロッジにも客が入ったのでしょう、昨日までは他に釣り人を見なかった川に、この日は10艇近くの舟が行きかっています。DiabloやPiraといった有名どころの舟も見られますが、意外なことにこの日見た釣り人達のうち半数以上はルア−マン。バスフィッシングの延長のチャレンジを求めてくるアメリカ人が多いのかもしれません。
下流域では優勢だったルア−が、ここ上流域ではフライほど反応が得られないのは、ここの澄んだ水とプレッシャ−の高さに理由がありそうです。
風も波もない、心地よい昼と夜のはざま。
肌寒くなってくると赤ワインが楽しみになってくるものです。思うところは皆同じ。他の舟たちもそれぞれのロッジへ戻ってゆきます。僕達も今日は意地をはらず、蚊の出勤前に宿へ戻ることにしました。
上流、下流合わせて一週間に及んだ僕らの滞在もこれにておしまい。長年の憧れであったドラ−ドの感触を記憶の中に確かめつつ、丁寧に竿をたたみました。
静かな湿原に満ちる、おだやかな満足感。
ありがとう、この素晴らしい野生の世界。
ありがとう、誰のものでもないエルドラド。
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重要参考人を取り調べ。獰猛なイメ−ジで恐れられるピラニアですが、実のところ被害者となることの方が多いとの由。小さな個体はドラ−ドの格好のおつまみですし、大きくなった後も物陰にひそむワニの牙にかかれば敵うはずもありません。
自然に生きるものは皆、連鎖の輪に加わることで存在の権利を得、しかるべき時に借りを返し、輪廻転生を重ねてゆくのでしょう。この世の理を思うとき、人間という不自然な存在の僕は一種の憧憬の念に駆られます。いや、といっても今スグ輪廻転生したいわけじゃありませんけども。
ここ上流域にきてから、ドラ−ドのフッキング率が格段に向上したように感じます。濁った水にフライを叩きつけ、リアクションバイトを誘っていた下流域に比べ、澄んだ流れにフライをスイングさせて喰わせるここでの釣り方では、魚はフライを良く観察し、狙い定めて襲ってきます。
またフックアップの瞬間には大抵フライラインが十分に水中に沈み、下流向きの水圧がかかっている状態です。違和感を感じた魚は上流へダッシュしますから、そこで思い切りラインを引けば、フックポイントはおのずと口の端にかかるという寸法です。
岸辺にワニの頭の骨を見つけました。
世界中どこでも水辺は生と死がもっとも激しく交錯するところです。
四日目。
黄金郷での滞在もいよいよ今日で最後。
顔なじみになった牛達に見送られ、朝の川へと向かいます。