この国での釣りに取り掛かるにあたり、一冊の本を読んでみました。ソビエト崩壊直後、90年代のロシアをフライロッド携えて旅したアメリカ人の紀行文です。
横行する密漁、組織的な天然資源の搾取、自然破壊、、、これを読むと飛行機から見渡す広大な原野も、実は既に現代社会の脅威に晒されてきたという事実に直面させられます。そしてその状況は二十年経った今も目だった改善を見ることなく、多くが打ち捨てられたまま。悲しいことですが、ロシアを旅することは、国家のイデオロギ−や人間の経済活動がもたらす爪痕を目の当たりにする経験でもありそうです。
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ここまでの問題は、幾つかのキ−ワ−ドの綴りを知っておくことで対処可能です。気になるロッジにコンタクト。しかしここで三つ目の問題として、英語で書いた問い合わせにはほぼ返信が来ないのです。英語サイトを併設し外人客を意識しているらしい宿でも多くが無反応ですから、現地人向けの安宿となると、ロシア語以外はジャンクメ−ル扱いです。
キ−ワ−ドを辿って情報収取、Web翻訳の力を借りながらコンタクト、あとは現場でカタコト勝負。コストを抑えて自分の旅行をするには相応の努力が求められるのがロシア。これを面白いととるか、めんどくさいととるか、、、僕自身、正直後者ですが。
キ−ワ−ド
Рыбалка (リバルカ、Fishing)
нахлыст (ナハリスト、Flyfishing)
База (バザ、Lodge)
гид(ギィト、Guide)
лосось (ラソ−シ、Salmon)
кумжа (クムジャ、Trout)
голец (ガリエツ、Char)
хариус(ハァリウス、Greyling)
щука(シュカ、Pike)
ロシア語翻訳
MicroSoft翻訳
Google翻訳
Fishing
ここまで苦労してアレジンジするからには良い釣りをしたいものですが、そこがなかなか期待通りにいきません。というのも、ロシア人は広大な国土への過信からか自然保護意識が希薄。元々の魚食文化と相まって『根こそぎ食う』という姿勢がいまだ主流なのです。
一部メディアはC&Rの啓発に努めてくれていますが、趨勢を変えるには至っていません。都市近郊は勿論、かなり辺境の地でも、魚影は期待ほどではないのが苦い現実です。
このネット時代、Russia、Fishing、等と検索すれば幾つかサイトが見つかるはず。しかし問題が三つ。
まず一つ目に、英語検索では欲しい情報に行きつけないことが多いのです。『Japan Fishing』と打ち込むか、『北海道 アメマス』と検索するかでは得られる情報の量も質も変わるのと同じです。
二つ目に、外国人には高額価格設定が一般化していること。英語サイトで提示される価格はロシア語サイトに比べ2〜3倍。そこを入口とする限りリ−ズナブルな釣行は不可能です。所得水準が違うのだからという見方もあるでしょうが、倍以上の価格とは如何に?
Getting around
およそ世界のどこでもそうですが、都市近郊で良い釣りをすることは困難。飛行機や列車を降りてから、かなりの距離を移動する必要があります。
近年保安規制が緩和されるにつれ、レンタカ−を借りられる地域も増えてきています。が、田舎の道路状況はひどく、自由にドライブしての釣り旅は困難です。Kola半島北部など、軍の施設に近い地域では外国人立ち入り禁止のエリアが多いことにも注意が必要です。幸い、ロシアには長距離タクシ−を副業(本業?)にする人達が多く、辺境の宿でも事前依頼すれば足の手配を行ってくれます。費用は100kmにつき5千円程。道中のトラブルに備える意味でも、ロシア人ドライバ−を雇うことが現実的な選択肢です。
Getting there
一昔前は、受け入れ先からの『招待状』が求められ、手配面倒であったロシアビザですが、昨今では随分簡単。代行業者に依頼すれば『招待状』は不要、費用も一万円未満とリ−ズナブル。
成田からモスクワへはエアロフロ−トが毎日、JALも週4-5便を飛ばしています。東部ロシアへの便は成田からウラジオストク、ハバロフスクへの便が隔日で飛び、夏場にはカムチャッカ直行のチャ−タ−便もあるようです。ソビエト時代のように遠い国ではありません。
3月になると雪の降る頻度は減り、気温も0度を超える日が増えてきます。残雪が完全に消えるのは4月も半ばですから、実に一年の半分以上、雪を踏んで暮らしている計算です。
夏は、突然に訪れます。5月初旬のある日、眩しい朝日に窓の外を見ると、いきなり新緑の爆発!思わず声をあげてしまうほどの突然の変貌です。5月から9月初旬までが観光には適した時期でしょう。
Planning
ロシアは英語がほとんど理解されない国。自由旅行、特に辺境の釣りにでかけるならば、ロシア語の初歩的知識は不可欠です。
ロシア語は実際難解な言語で、そもそも独特のキリル文字が学習意欲を削いでくれます。が、本気で一晩向き合えば文字は判読できるようになりますし、旅行に足るフレ−ズは3か月もあれば覚えられます。字が読める、挨拶ができ、何をしたいかが言える、それだけでも旅は格段に充実します。
周辺の衛星国を実質支配し、まさに超大国だったソビエト連邦。その崩壊後もこれらの国々はCISと呼ばれる(EUのような)経済共同体を構成し、(時に不協和音を奏でながらも)一応の団結を維持しています。
Climate
北海道以北に位置する土地。そこには短い夏と長い冬、二つの季節しかありません。モスクワの場合10月頭には早くも雪が舞いはじめ、寒い冬へ突入。日照時間は乏しく暗い雪雲が立ち込め、気の滅入る時間が流れてゆきます。年を越し、2月半ばにかけて寒さは-30度前後のピ−クに。一方、晴れる日が増え、日照時間は伸び、気持ち的には楽になる時期でもあります。
この国をエキゾチックにする一要素に、ロシア正教の存在があります。カトリックともプロテスタントとも異なる正教(オ−ソドクス)と呼ばれる会派。ロシア正教はギリシャ正教との関係が深く、ロシア語に用いられるキリル文字もギリシャ語から発展したものだという事実は、両国間の距離や現代の希薄な関係からみると意外にも思えます。
宗教を弾圧した共産党支配の終焉を機に、破壊され捨ておかれていた聖堂や教会は再建され、劇的な復興を遂げました。資本主義化がもたらす現代ロシアの格差社会は、人々を再び信仰に、あるいはソビエト時代へのノスタルジ−に駆り立てるものかもしれません。
史上最初の共産主義国家、ソビエト連邦の中枢として西側世界と隔絶された20世紀を過ごしたロシア。冷戦の終結、急激な自由化にソビエトは方向性を失い、1991年の保守派ク−デタ−失敗を機に解体へと向かいました。
その後の天然資源ブ−ムに支えられ新生ロシアは資本主義的傾向を強めてきましたが、その独特な世界は脈々と受け継がれています。折しも今は、1917年のロシア革命から100年の節目。波乱の世紀を過ごした大国の今に、歴史の足跡を探すのは興味深いものです。
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